vol.38

「こどもたちの成長の節目に立ち会う喜び」 言語聴覚士

私が他県で就職してすぐ、小児リハビリ外来で受け持ったお子さんはAくんという2歳の可愛い男の子でした。
言葉の遅れを主訴に療育を開始しましたが、3歳で「自閉症」という診断名がつきました。

ことばが少し増えてきた頃、就園の時期が来ました。
しかし、行きたい幼稚園には全て断られ、お母さんは涙ながらに理想と現実のギャップに苦しみ、診断を受け入れるまでにもかなりの時間を要しました。

言語面に関する訓練法は教科書や学んできた知識で対応できますが、就園のサポートや落ち込む親御さんへの対応はどの教科書にも書いてありません。
子育て経験のない、当時22歳の私ができることといえば、お母さんの気持ちに寄り添い、傾聴し、障害受容の過程を見守ることぐらいでした。

その後、私は結婚し夫の転勤で香川に引っ越すことになり、小学2年生になったAくんとのリハビリは終了となりましたが、手紙での交流をさせてもらいました。

そして月日が流れ、あのAくんが、国立大学に合格し大学生になるという嬉しい報せが届きました。
もともと頑張り屋さんでしたが、相当な努力をしたことと思います。

私は直接Aくんとお母さんにお祝いを伝えたいと思い、連絡をとりました。
Aくんのお母さんはこれまでのことを色々お話ししてくれました。
やはり自閉症を持つAくんを取り巻く環境は厳しく、小・中・高校とたくさんの困難があったそうです。
そのような中で、どうやってここまで乗り越えてきたのかと尋ねると、お母さんは早期療育と医療機関に通い続け、相談できたことが一番良かったと教えてくれました。

Aくんは自分自身の療育経験から、将来は自閉症を持つ自分と同じようなことばやコミュニケーションに困難を持つ人に関わる仕事をしたいそうです。

へいわこどもクリニックの外来には、当病院を選んでくれた沢山の子どもたちがリハビリに来てくれています。これからも選ばれ、通い続けてもらえる医療を提供し、子どもたちの成長の節目に立ち会いたいです。