vol.56

「認知症の方との向き合い方」 健康づくり課 保健師

今年度16例目の、院長、事務長、総看護師長推薦の発信賞に輝いた記事です

「最近にわかに将棋ブームとなっています。
私も「観る将」の一人ですが、将棋に興味を持ち始めたのは、数年前まで働いていたデイサービスでの利用者さんとの出会いでした。
その方は、認知症がすすんでいたので、室内を徘徊したり、近くにある物をポケットに入れたりと、目が離せない状態でした。
しかし、将棋はとても強かったので覚えていたのか、将棋を指す時だけはじっと盤の前に座っていました。
当時の私は将棋のルールや駒の並べ方さえ分からなかったのに、その方の将棋の相手をすることもありました。私がどんなにおかしな手を指してもその方は文句も言わずに「その手でいいですか?面白い手を指しますね」といって、にこにこ将棋を指されていたので、私なんかが相手でも楽しいんだなと思っていました。

ある日、小学生の息子がデイサービスにきました。
小学校で将棋を覚えたこともあり、その方に一局お願いしたところ快く相手をして下さいました。
私よりルールが分かっていたのと子どもと言うこともあってか、とても真剣に教えて下さいました。
最後は「また教えてあげるよ。」と言って下さり、息子もとても喜んでいました。
その時のその方のお顔が晴れ晴れとしていて、本当に楽しかったんだなと思いました。
その姿を見て私は、ただじっとしておいていただくために将棋をしていたのですが、とても失礼なことだったと反省し、少しづつ将棋の勉強をしました。

しかし、将棋は奥深く、結局「指す将」にはなれず「観る将」に収まりました。
日々忙しい中では難しいこともありますが、病院に来られる方一人一人にこちらの都合ばかりをおしつけるのではなく、向き合わなくてはならないと思います。
もし、今その方と将棋を指せたら、私にも「教えてあげるよ」といってくださるかな・・・。
将棋の対局を観ると、今でもその方を思い出します。」